つらい体験の中で私たちを苦しめているものは人やモノや出来事なのですが、
苦しめ続けるものはその体験をとおして作られた自分に向けた強い否定的な
イメージです。
EMDRを受けたいと来談されたお一人(女性30歳)は、小さいときに母親に
傍にいてもらうことができず淋しく怖い夜を過ごしていたそうです。
祖父母から何かにつけ酷く叱責されるだけでなく不在の母への非難の暴言も
ぶつけられながら、つらい子ども時代を過ごしたそうです。
「家を出るための結婚」をして子どもを持ったのですが、今少し成長した娘を
可愛いと思えません。
冷静に「うんうん」と話は聞き教えることや注意すべきことはして、形だけは
母親として接していますが、抱き寄せたり抱きしめたりすることができません。
「娘は本当は甘えたいと思っているでしょう、自分が辛かったのと同じ淋しい
思いをさせてしまってる」と自分を責めるのですが、どう接して良いかわからず
一緒にいることすら苦痛でしかたがないのです。
クライエントの方がEMDR(両側性のリズミカルな身体刺激による脱感作と再処理)を
体験しながらご自身の心を見つめていくと、そこに立ち会わせて頂いている私の前で
不思議で感動的なプロセスが繰り広げられます。
そこでは身体が緩み過去の体験があふれ出て、苦しみの中を生きてきた自分への
理解が深まっていきます。
すると、もう自分を責める思いはなくしみじみと自分をいたわる気持ちに包まれます。
その方も、肩の力が抜け今までの自責感が和らぎ
「もう、十分。できる限りのことをやっている」
「娘は可愛そうだけれど、今はしょうがない」という思いに至りました。
そして「だから、娘にも気持ちを話せる人を見つけてあげたい」と結びました。
※この事例は個人が特定されないように弊社であった相談をいくつか組み合わせて作ったものです。