AD/HD(注意欠陥/多動性障害)
まず、AD/HD(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)とはどのようなものなのか、簡単に医療現場で使われている診断基準を参考に見てみます。AD/HDは7歳未満に発症し、多動性、不注意、衝動性を症状の特徴とする発達障害の一つと言われており、症状に従い、さらに次の3つに分類されています。
・「混合型」…不注意と多動・衝動性の両方の症状が見られる
・「不注意優勢型」…不注意は見られるが多動・衝動性が見られない
・「多動性・衝動性優勢型」…多動・衝動性は見られるが、不注意は見られない
不注意とは、容易に気をそらされてしまい、細部にまで注意を向けたり、特定の課題に注意を維持したり、指示を聞いたり、始めたことをやり終えたりすることに困難を感じてしまうことです。多動・衝動性とは、じっと座っているのが困難で、そわそわし、不適切な状況で走り回ったり、のぼったりするし、順番を待つことができない。人の話が聞いているように見えず、忍耐や集中力を要するような活動に困難を感じてしまうことです。
(『DSM-Ⅳ‐TR ケースブック』APA 高橋三郎他訳 参照)
一般にAD/HDは、多動性が少ない不注意優勢型である場合が多いと思われます。また、子どもではICD-10による多動性障害(Hyperkinetic Disorders F90)の診断名が適用されることも多くあるようです。
(『DSM-Ⅳ-TR 精神疾病の分類と診断の手引 改訂版』 髙橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳 医学書院 参照)
AD/HDの歴史的背景
発達障害のAD/HDは、ずいぶんと昔から報告されています。欧米では行動、認知、情緒の障害を持つ子どもは100年ほど前から注目されており、「親のしつけが悪い、育った環境に原因がある、「呪われた悪魔の子」として生まれたどうしようもない子」などと説明されてきました。
医学的な研究では、1902年にイギリスの小児科医であるジョージ・スティルが「子どもたちにおける若干の異常精神状態」という講演で、多動児の事例を紹介し、こうした症状が脳障害や遺伝的原因によって引き起こされると発表したことが始まりとされています。その後、多くの研究者の間で、幼少期に受けた脳損傷が原因となる障害であると考えられるようになります。日本においても、これらの障害はMBD(脳微細機能障害)という名で、注目を集めました。そして、1960年ごろには、発達心理学者のステラ・チェスらが多動児症候群と命名し、1970年代には、これらの特徴として
① 注意力と努力の欠如
② 衝動性
③ 刺激の強さをコントロールできない
④ すぐ結果があらわれないと気がすまない
の4つが共通点としてあげられました。1980年にはDSM-Ⅲ(アメリカの精神疾患の分類・診断基準であり、広く日本においても使われている)において「注意欠陥障害Attention Deficit Disorder:ADD」の名称が用いられ、1994年に改定されたDSM-Ⅳにおいて現在の「注意欠陥/多動性障害(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder:AD/HD)という名称に変更されました。
(『ADHD臨床ハンドブック』 中根晃著 金剛出版 参照)